Vol.29 盛るか削ぐか。静寂のフォーマル論
- kaifuku8
- 12月6日
- 読了時間: 7分
今日は12月6日。 つい先日までの生温かさが嘘のように、東京は急に冬の顔を見せ始めました。最高気温11度。冷たい風が肌を刺しますが、これでようやくコートの出番です。 街は律儀にクリスマスソングを流し、イルミネーションを点灯し、私たちに「さあ、年末だ。着飾れ。パーティーだ」とプレッシャーをかけてきます。
水曜日から始まった伊勢丹新宿店でのPOP UPイベントも、初の週末を迎えて多くのお客様をお迎えしています。この場を借りて御礼申し上げます。 さて、そんな店頭でも、あるいはWEBサイトへの問い合わせでも、この時期になると急増するのが「オケージョン対応」についてのご相談です。
忘年会、クリスマスディナー、少し早めの謝恩会の準備、あるいは結婚式。 「ハレの日」の服をどうするか。
そこで今回は、DOMELLEが考える「FORMAL(フォーマル)」の正体について、そして私たちが異常なまでの執着を見せる「素材」と「黒」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。 長くなりますので、グランデサイズのコーヒーでもご用意の上、お付き合いください。
フォーマルを、もう一度定義し直す
突然ですが、世の中のフォーマルウェアは、大きく二つに分かれると思いませんか? それは、“盛るフォーマル”と、“削ぎ落とすフォーマル”です。
あくまで、服そのものの「デザイン」の話です。
前者は分かりやすい。ボリュームのあるスカート、繊細なレース、光るビジュー。それらを身にまとうことで「私は今、特別な場所にいます」と高らかに宣言するスタイル。これはこれで素敵ですよね。
しかし、DOMELLEが属するのは、迷わず後者。「削ぎ落とすフォーマル」です。
飾り立てるのではなく、造形と素材そのものの「品」だけで立ち上げる。 これには明確な意図があります。それは、「あなたの個性を弱めず、輪郭だけをほんの少し正す」というアプローチです。
フォーマルウェアを着た時、どこか「着せられている感」を覚えたり、その日だけ別の人格をまとったような居心地の悪さを感じたことはありませんか? DOMELLEは、それを良しとしません。 余計な要素を引き算し、素材、肩線の角度、首元のあき、シルエットの落ち感といった「余白」を整える。そうすることで、姿勢も佇まいも静かに変わっていく。 着る人を書き換えるのではなく、その人の輪郭を美しくなぞり直す。それが私たちの考えるフォーマルです。
日本という国が生んだ「マナー」という名の呪縛
少し視野を広げて、海外と日本のフォーマル観の違いについて考えてみましょう。
欧米のパーティーシーンにおいて、ゲストが最も大切にするのは「その場に華を添えるために、自分自身がいかに美しく在るか」です。だから彼女たちは、たとえ結婚式であっても堂々とブラックドレスを着ます。黒は「喪」の色ではなく、最も格式高く、女性を美しく見せる「モード」の色として扱われるからです。
一方、日本はどうでしょうか。 結婚式やパーティー会場でよく見かける、少し不思議な光景があります。
光沢のあるベージュやパステルカラーのサテンワンピースに、なぜか透け感のあるボレロやショールを羽織るスタイル。 決してそれを否定するわけではありません。「花嫁より目立ってはいけない」「肌を露出してはいけない」という、周囲への配慮とマナーを守ろうとする、日本人らしい健気な姿勢の表れです。
ですが、正直に申し上げます。 大人の女性がその「定型」に収まろうとしすぎた時、どこか「借りてきた衣装」のように見えたり、没個性の「受付係」のように見えてしまったりすることはありませんか?
DOMELLEが提案したいのは、過剰な同調圧力による「無難なユニフォーム」からの脱却であり、「日常の延長」としてのフォーマルです。
フォーマルとは、日常から「特別な場所」へ移動する機会。 ですが、そこで別人になる必要はありません。 DOMELLEの服は、日常から「半歩」だけ特別な場所へ、あなたを無理なく連れて行きます。 非日常の場でも背筋が伸びるのに、「今日の自分」が消えない。その絶妙な距離感こそが、私たちの目指すスタイルです。
アーカイブに見る、DOMELLEの「引き算」の系譜
実は、DOMELLEには特定の「FORMAL LINE」というカテゴリーは存在しません。 なぜなら、フォーマルという要素は特定のシリーズではなく、DOMELLEの服全体に息づいているからです。
面白いエピソードがあります。 デビューシーズンの23AWのこと。当時、私たちはスウェットのようなリラックスした雰囲気を持つセットアップを発表しました。 あるセレクトショップの予約販売で、開店前から行列ができ、整理券を配るほどの即完売劇が起きたのです。その理由についてお店のスタッフの方曰く、多くのお客様が、「卒入園式などのオケージョン用」として購入されたというのです。
なぜか? それは、服自体が「過剰な主張」をしなかったからです。 もしその服にフリルやレースがついていたら、パールのネックレスやバッグを合わせた瞬間に、情報量過多で「やりすぎ(=盛る)」になっていたでしょう。
けれど、DOMELLEが徹底的に要素を削ぎ落としていたからこそ、合わせる小物と喧嘩せず、むしろその人が足した「個性」を静かに受け止める「懐の深さ」があった。 ベースの素材とシルエットさえ完璧なら、あとはお気に入りのアクセサリーを一つ添えるだけで、驚くほど洗練されたフォーマルが完成する。 「何にでも染まれる強さ」と「自由度の高さ」。 それこそが、現代の女性たちに選ばれた本当の理由だったのだと思います。
DOMELLEの服には、盛らなくても格が出る「磁力」があります。 その系譜は、デビューから現在まで一貫しています。
2023AW - The Origin デビューシーズン。
この時発表したサテンドレスは、まさに「素材が語る」ブラックドレスです。 身体を拘束しない流れるようなシルエットと、深く濡れたような光沢。装飾を一切排し、生地の「落ち感」と「ドレープ」だけで成立させる。静止している時よりも、歩き出した瞬間にその真価を発揮するこの一着に、DOMELLEのフォーマル哲学の全てが凝縮されています。
2024AW - Evolution そして2年目。
このシーズンでは、定番の「タキシードシリーズ」を最もシンプルなスタイルで表現しました。まさに「引き算」の原点です。 素材におけるウールシルクのほのかな光沢、そしてボタンの位置、襟の角度、ポケットの仕様……。 全てのディテールに意味があり、一切の無駄がありません。
2025AW - Now そして現在。
今、伊勢丹新宿店のPOP UPにも並んでいる「定番のウールシルクタキシードシリーズ」。 この服は、アクセサリーやシューズを変えるだけで、昼のオフィスから夜のレセプションパーティーまでシームレスに対応します。 服を「着替える」のではなく、自身の「スイッチを入れる」。 そんな、現代の女性に必要な一着です。
「黒」は一色ではない。素材オタクの独白
「削ぎ落とすフォーマル」を成立させるために、私たちが最も神経を尖らせているのが「素材の調律(バランス)」です。特に「黒」という色には、狂気的なこだわりを持っています。
皆さんは、「黒」には何種類もの色があることをご存知でしょうか? 安価な化学繊維の黒は、光を乱反射して白っぽく見えます。これはフォーマルの場、特にホテルのダウンライトや自然光の下では致命的です。
私たちが目指すのは、「光を吸い込むような黒」や「濡れたような黒」。
例えば、今シーズン使用しているトリアセテートやウールの二重織り(ダブルクロス)。 指で触れると、わずかに押し返してくるような弾力(バウンス感)があります。この肉厚な素材感が、身体のラインを拾いすぎず、しかし彫刻のように美しいシルエットを作り出します。 あるいは、シルクのような軋み(きしみ)を持つ合繊素材。動くたびに「衣擦れ」の音が心地よく響くような、聴覚に訴える素材選び。
黒という色は、素材の良し悪しを残酷なまでに暴きます。 言葉にしなくても、その服が放つオーラだけで質の良さが伝わる。それが、大人の女性が身につけるべき「品格」の正体だと、私たちは考えています。
あなたという「個」を際立たせるための黒衣(くろご)として
私たちの作る服は、決して安くはありません。 そして、わかりやすいブランドロゴも入っていなければ、一目でそれと分かる派手なアイコンもありません。
ですが、フォーマルな場において最も重要なのは、「どこのブランドの服を着ているか(=ブランドタグの価値)」ではなく、「その服を着ているあなたがどう見えるか」ではないでしょうか。
装飾で自分を隠すのではなく、引き算された服で自分の中身を際立たせる。 歌舞伎の黒衣(くろご)のように、服はあくまであなたを引き立てる背景でいい。主役は服ではなく、あなた自身です。
気負う必要はありません。華美にする必要もありません。 あなた自身の輪郭を、ほんの少しだけ整えてくれる服があればいい。 DOMELLEのフォーマルは、「静かな自信」をそっと纏わせるための服ですから。
その日のあなたを、あなたのまま、大切な場所へ連れていくために。 現在開催中の伊勢丹新宿店のPOP UP、あるいは取扱店の店頭で、その「半歩先の日常」に触れてみてください。
冬本来の寒さが戻ってきた週末。 お気に入りのコートの襟を立てて、颯爽と街を歩きましょう。




































