Vol.16 理想と現実の狭間で
- rukasugisawa
- 9月5日
- 読了時間: 4分
更新日:9月26日

昨日はトワルチェックの日でした。
過去の記事でもご紹介しましたが、今回はもう一度トワルチェックについてのおさらい。
「もう知ってるよ」という方はスルーして下さい。
そうそう、このウェブサイトのDEAIGN / FORMにトワルチェックの作業中の写真があるんですが、最近どっと増やしておいたので、スルーする人もお時間のある時に見てみて下さいね。
MENU > BACKSTAGE > DESIGN / FORMです。
さて、デザイナーが描き上げたデザイン画を基に、パタンナーがパターン(洋服の設計図)を起し、型入れをしていきます。
「Vol.4 マーキングは真面目なテトリス」でお話ししたマーキングという作業です。
次に、服作りの現場では、「Vol.8 トワルチェックについて」でご紹介した「トワルチェック」という大切な工程があります。
ここは端折れないので、ちょっと掘り下げますね。
トワルとは、シーチングと呼ばれる生成りの布を使ってつくる仮縫いの服のこと。
この段階でシルエットやバランスを細かく確認していきます。
例えば、肩の線をほんの数ミリ動かすだけで、着たときの印象や着心地がぐっと変わります。
アームホールの丸みやウエストに入れるダーツの角度も同じ。
専門的な話に聞こえるかもしれませんが、要するに「着たときに自然で美しく見えるか」を徹底的に、納得がいくまで追い込んでいるのです。
この時、デザイナーは、頭の中でシーチングを実際に使用する生地に置き換えて作業をするんだそう。
チェックするのは見た目だけではありません。
歩いたときにスカートがどう揺れるか、座ったときに背中にどんなシワが出るか、腕を動かしたときに窮屈さがないか。
着る人が日常で自然にとる動きを想定しながら、服が身体と心地よく寄り添えるかどうかを突き詰めていきます。
DOMELLEにとってトワルチェックは、ただの確認作業ではありません。
デザインの世界観を、現実の女性の暮らしに落とし込んでいくための大切なステップ。
布が立体となり、「服」として命を宿す瞬間です。
一見舞台裏のような作業ですが、その積み重ねこそが、DOMELLEの服に込められたこだわりなのです。
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そんな昨日のトワルチェックでの一コマ。
ディレクターが私に「どう思う?」と投げかける場面がありました。
あまり詳しく説明すると怒られちゃうので簡単に説明すると、26AWではとても素敵なレースが採用されるんです。
オーナメント刺繍レース…と呼ぶことにします。
繊細な透け感とグロッシー(濡れたような艶感のこと)な艶が美しいオーガンジーを土台に、アンティーク調のオーナメントモチーフを揺れ動くように刺繍した立体的なレースです。これは、スイスでも有数のレースメーカーのアーカイブ図案を使用していて、それを基にオリジナル素材として作ってもらったんです。
その「繊細な透け感」をどう扱うかが検討課題となりました。
透け感がとても素敵なんですが、素敵とはいえ、「透け具合」が難しいじゃないですか。
アート作品なら構わないのかもしれませんが、実際にその服を着る人に寄り添えば、「透け具合」は慎重に扱うべきポイントになります。
「じゃあ裏打ち布で透け感を調整しよう」とした時、今度はその裏打ち布のカラーをブラックにするべきかホワイトにするべきかという次の難題にぶつかります。
レースの色はブラック。
ブラック裏打ち布の上にブラックのレース…彫刻っぽくてカッコいいんですが、ホワイトの裏打ち布の方がレースの視認性が上がりますよね。
ディレクターが私に声をかけたのはこの場面でした。
…ということは、ディレクターは裏打ち布がブラックの方がいいと感じているのかな。
「ブラック派? ホワイト派?」
皆さんならどちらを選びますか?
まぁ、この結末は来年8月のリリースまでのお楽しみとして取っておきましょう。
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一つのシーズンテーマに基づいて洋服という形で世界観を表現するのですが、同時に、理想と現実の折り合いをどこでつけるのかの葛藤は避けられません。
現実の世界でその洋服を着る人に寄り添うものでなければなりませんからね。
肩の線を数ミリ動かすだけで印象が変わるように、服って本当に奥深い。皆さんがいつか袖を通したとき、その心地よさを感じてもらえるように。
昨日のトワルチェックも、その先へとつながる小さな一歩でした。