Vol.25 25AW プラートから始まる糸の物語
- kaifuku8
- 10月21日
- 読了時間: 4分
10月下旬。
早朝、玄関を出たときに思わず息が白くなりそうな空気。
けれど日中はまだ日差しが残っていて、クローゼットの前で「コートを出すのはまだ早い?」とつぶやいてしまう。
そんな曖昧な季節の入り口に、DOMELLEが選んだ答えが FALIERO SARTI(ファリエロ・サルティ)のモヘアです。
プラートの工房から
イタリア・トスカーナ地方のプラート。中世から織物で栄え、今も世界中のブランドが最高の生地を求めて集まる街です。 そこで1949年に生まれた FALIERO SARTI は、70年以上にわたって糸と向き合い続けてきた老舗生地メーカーです。創業者ファリエロは「素材こそ洋服の心臓」という信念を掲げ、糸一本にまで妥協しない姿勢で生地づくりを続けました。
70年以上経った今も、その精神は全く変わらず、クラシックな技術に革新を重ねる姿勢は世界のトップメゾンから信頼を集めています。
今となっては、ストールが有名ですが、そのずっと前から、多くのメゾンから愛されている高品質な生地メーカーです。
職人たちは糸を指先でそっと撫で、ほんの小さな違和感も見逃さない。「自分の家族に贈れるかどうか」を基準に糸を仕上げていく姿は、どこか頑固で、どこか温かい。午後の光に照らされ、モヘアの毛羽が宙を舞う工房の光景は──ちょっと大げさですが──魔法の粒子が飛んでいるように見えました。
そんな工房から届いたのが、モヘア58%・ウール42%、モヘアの紡毛糸でありながら16マイクロンという細さのループツイード、それはカシミヤと同等クラスの柔らかさと艶があり、それがまたぎゅっと高密度に織られているので、まるで毛皮のような立体感。
カシミヤ級の細さと高密度が生み出す立体感は、思わず撫でたくなる危険な布。FALIERO SARTI の名を知っている人には「スカーフの魔法」が有名ですが、私たちはその魔法を一着の“洋服”へと拡張しました。
MOHAIR LOOP COAT
大ぶりのテーラードカラーに、後ろ身頃のテクニカルなダーツ。
正面からは端正なのに、背中にはふんわりと丸みを帯びている──このアンバランスさが魅力です。
羽織ったときにまず感じるのは、「見た目と中身の矛盾」。重厚に見えるのに驚くほど軽く、ふわりと空気を纏っているような感覚。しかも内側にほんのり熱がこもるから、電車の中でも外の風の中でも、温度差をやさしく調整してくれる。 生地がまるで“呼吸している”ように感じる瞬間があります。
朝の通勤ではタートルに重ねるだけで、きちんと感と余裕を同時に演出。エレベーターの鏡に映る自分が、少しだけ頼もしく見える。
午後の街歩きでは、ふとした光にループが陰影を落として自然体のまま視線を集めてしまう。友人に「そのコートどこで?」と聞かれるのは、ほぼ確実。
車に乗り込む時にも、ショート丈は便利。足回りを気にせず、スマートな所作で、背筋もなんとなくすっと整います。
夜歩けば街灯の光に映えるループの立体感が、静かなドラマを生み出す。
Faliero Sarti のスカーフが「首元だけで印象を変える」としたら、このコートは「一着で一日を完結させる」力を持っています。まさに現代のドレスコードと言えるでしょう。
MOHAIR LOOP DRESS
同じモヘアループを、思い切ってシンプルに仕立てたコクーンシルエットのドレス。
フロントとバックで異なるカッティングを施し、正面はすっきり、背中から裾にかけてはふんわり。この二面性が、着る人の気分を自在にスイッチしてくれます。
私はこのドレスを着て仕事帰りにレストランに行った夜、コートを脱いだ瞬間に空気が変わったのを覚えています。生地のループが照明を受けて陰影を描き、何でもない夜が少し特別に見える。
休日の昼にはブーツを合わせてショッピングに。肩の力を抜いたモード感が漂い、「今日はちょっと背伸びしてもいいかも」と思わせてくれる。
さらにアクセサリーを添えれば、たちまちパーティ仕様に早変わり。フォーマル過ぎず、十分に華やか。ドレスコードに縛られない“現代のドレス”として、この一枚が輝きます。
Faliero Sarti のスカーフが「ひと巻きで自由を与える」としたら、このドレスは「一枚で女性を解放する」ためのアイテムです。
おわりに
プラートの工房で紡がれた糸が、日本で仕立てられ、今を生きる女性の一日を彩る。
そこには「伝統とモード」「スカーフと洋服」という出会いがあります。
MOHAIR LOOP COAT と DRESS は、防寒のための洋服ではなく、気分を高めるため、そして自分をランクアップさせるためのアイテム。
クローゼットを開けるたびに「今日は撫でちゃおうかな」と心の中で小さく笑ってしまう──そんな相棒です。

















