Vol.22 DOMELLEとLINTON TWEED
- kaifuku8
- 9月26日
- 読了時間: 6分
更新日:9月28日
TWEEDという素材には、不思議な二面性があります。
ひとつは「クラシック」「重厚感」「特別な日だけの服」といった歴史に根ざした顔。もうひとつは、糸をどう組み合わせるかで無限に変化する可能性を秘めた実験的な顔。DOMELLEが惹かれるのはまさにその後者──未来に向けて何度でも問いかけたくなる素材としてのTWEEDです。
DOMELLEはデビューの23AWから、毎シーズン欠かさずLINTON社の生地を使ったTWEEDのアイテムを生み出してきました。それは偶然ではありません。TWEEDこそが、DOMELLEのものづくりを象徴する存在だからです。
LINTONという存在
LINTON社は1900年代初頭に英国カンブリア地方で創業しました。100年以上にわたり、シャネルをはじめとする名だたるブランドに独自のTWEEDを届けてきた存在です。
最大の特徴は、糸から自社で開発していること。ルレックスやペーパーヤーン、ポンポンヤーンなど、一見異素材と思える糸を大胆に掛け合わせ、織りで新しい景色を生み出します。伝統に安住するのではなく、常に実験と遊び心を失わない──それこそがLINTONの魅力であり、DOMELLEが共鳴する精神でもあります。私たちがLINTONを選び続けるのは、その歴史を借りるためではなく、その品格のある革新性に惹かれているからなのです。
TWEEDの再解釈──DOMELLEの原点
「どうして毎シーズンTWEEDを?」と聞かれることがあります。答えはシンプルです。DOMELLEにとってTWEEDは、ただの素材ではなく“ものづくりの原点”だから。
TWEEDはクラシックで重厚、フォーマルな日にだけ着る──そんなイメージを持つ方も少なくないでしょう。そもそもルーツは、英国の伝統的な羊毛文化から派生した、耐久性のある実用的で少し無骨なもの。そこから女性の社会進出と共に、軽さや柔らかさ、軽やかさ、意匠性を持った華やかな素材へと進化してきました。
そこにDOMELLEは「光」「空気」「自由さ」を吹き込み、クラシックの印象を軽やかに更新していきます。めざすのは、現代の女性の一日一日に寄り添うTWEEDです。
たとえばWHITEシリーズに採用したLINTONの一部生地は、ナイロン55%/ウール40%/ポリエステル3%/アクリル2%という配合。数字だけ見れば無機質ですが、実際はそのブレンドが独特の弾力と柔らかさを生み、動くたびに光を受けて表情が変わります。
DOMELLEは毎シーズン、TWEEDに問いを投げかけます。糸の質感をどう掛け合わせれば“軽さ”が出るか。光をどう受ければ“動き”が生まれるか。肌に触れたとき、どうすれば“やさしさ”を感じるか。その答えを、設計・縫製・仕上げ(たとえば、地の目を変えた二重フリンジを手作業でほどく工程など)まで一着ずつ積み上げ、毎シーズン新しい解答として差し出しています。
だからDOMELLEのTWEEDは、クラシックでありながらモダン。特別な日に纏えるのはもちろん、日常にもふと取り入れたくなる存在であり続けられるところが高く評価されています。
25AW──夜明けと雪の物語
今季25AWでDOMELLEが描いたのは、二つの物語です。
ひとつは「SPANGLE」シリーズ。
黒を基調にしたワッフル織のTWEEDに、ルレックスとスパンコールが煌めきます。LINTONがこの生地を開発した着想源は、世界の七不思議のひとつ、バビロンの空中庭園。DOMELLEはこの虹色のスパンコールが散りばめられたTWEEDを、夜明け前の空に輝く星のインスピレーションと一致させました。
この素材を見てすぐ、これはミニドレス風にも着られるベストだ!と直感。そして、このワッフルのような素材は、フリンジのラフ感がマッチすると確信し、ジャケット、スカートへと展開。いずれにも手作業でほどいた二重フリンジやオリジナルのメタルボタンを添えました。クラシックな装いに、ひとさじの遊び心を加えるDOMELLEらしいTWEEDです。さらに裏側には薄い芯地を施し、立体感を保ちながら軽やかに羽織れるよう工夫しました。
もうひとつは「WHITE」シリーズ。
アルプスの雪山からインスピレーションを得た真っ白なTWEED。ペーパーヤーンやポンポンヤーンが織りなすふんわりとした質感は、雪玉の丸みや新雪の柔らかさを思わせます。ブルゾンやショートベストというリラックスしたフォルムに落とし込むことで、ホワイトの純粋さと日常の軽やかさを両立させました。
そしてDOMELLEのデザインは、フォルムの立体感が特徴です。背中や袖の後ろ側をゆったりとさせることで、後ろ側でもゆとりと余裕を感じさせます。それは品格に通じる、私たちが物づくりで大切にしていることの一つです。そのため、ざっくりとしたTWEEDには薄く裏側全面に芯を貼って形を保つ工夫もこらしています。さらに肌に触れる部分には軽さと柔らかさを意識し、長時間の着用でも快適であるよう仕立てています。
夕陽に照らされたTWEEDは、光の角度によってさまざまな輝きを放ち、その質感は時間の移ろいを映し出します。クラシックな装いでありながら、都会的なシーンにもしっかりと映える力強さを秘めています。ジャケットとスカートのセットアップは、気品と実用性を兼ね備え、オンの場にもオフの場にも自在に対応します。
さらにDOMELLEらしい立体的なフォルムと精緻な仕立てによって、動いたときの陰影さえも美しく見せます。TWEED本来の重厚感を保ちながらも軽やかさを失わず、纏う人に確かな自信と凛とした存在感を与えてくれるのです。
そこには“伝統を継ぐだけでは終わらせない”という意思があります。クラシックの美意識を踏まえつつ、モードの視点で解釈し直すことで、現代の女性にふさわしい自由さと躍動感を備えたTWEEDへと昇華させました。フォーマルな場では端正に、日常ではしなやかに。場面ごとに異なる表情を引き出す一着は、まさにDOMELLEが目指す「進化するクラシック」の象徴です。
DOMELLEのものづくり
DOMELLEの洋服づくりは、素材を「敬う」ところから始まります。生地の特性を生かすために、細部に手仕事を惜しまない。25AWのアイテムでも、地の目を変えて二重に仕立てたパーツを一つひとつ手作業でフリンジ加工しました。このフリンジ加工というのは、時々目にすることがあるかと思いますが、良い素材、そのボリューム、そして手間のかけ方でグレード感が大きく変わります。
今回は、工場お手製の、このTWEEDの生地をほぐすための「櫛」を使って、1パーツづつフリンジを仕上げてもらい、そしてその端の部分だけを二重にする事で申し分のないボリュームを得ることができました。このような手間をかけたディテールが、袖を通したときの特別感につながると信じています。
私たちが目指すのは「特別な日のためのTWEED」ではありません。むしろ「今日という日を少し特別にするTWEED」。仕事帰りの食事、友人との集まり、自分だけの小さな記念日──そんな日常の延長に寄り添う存在であってほしいのです。
おわりに
LINTON TWEEDを通じてDOMELLEのものづくりの核心を少しでも感じていただけたでしょうか。伝統を尊びつつ、常に新しい可能性を探る。その積み重ねがDOMELLEにとってのTWEEDであり、ブランドの歩みそのものです。
これからも私たちは、クラシックな素材に新しい視点を与え、女性たちのクローゼットに小さな驚きと喜びを届けていきます。
26AW?もちろん26AWでも最新のTWEEDが登場しますよ。けれど、魅力は「最新版」にだけあるわけではありません。23AWモデルも、24AWモデルも、今なお多くの女性の日常を彩り、纏う人を幸せにしてくれています。DOMELLEのTWEEDは、流行のために生まれては消えるものではなく、何年経っても袖を通した瞬間に心を躍らせてくれる存在であり続けます。
そして、その裏側にはいつも職人の手仕事があります。地の目を変えて二重に仕立てたフリンジを一つひとつほどく工程も、裏地や芯地の組み合わせを何度も検証する作業も、どの作業も決して派手ではありません。けれど、その積み重ねこそがDOMELLEの洋服を何年経っても美しい佇まいに保ち、袖を通すたびに新鮮さを感じさせてくれるのです。
DOMELLEが願うのは「一瞬のきらめき」ではなく、「長く共に歩む歓び」。TWEEDという素材を通して、これからもその想いを形にしていきます。



























